2019年10月21日月曜日

【№42】花と光に包まれた旅立ち

トミおばあは、百歳。百年も生きてきたので、体のあちこちがギシギシと痛い。寒くなるとトミおばあは ますまぐったりする。でも もうすぐ ハルヨドリがやってくる。ハルヨドリは やせていて 太陽のにおい。肩に大きなリュック。澄んだ瞳。ハルヨドリが どこまでもとべるのは このリュックの中に ハルヨの花の種が ぎっしり つまっているからだ。ハルヨドリは年二回、遠い国から トミおばあのいる 小さな島へ とんでくる。トミおばあは ハルヨドリをまっている。何日も 何日も 何日も──。そして ついに オリーブ色の風といっしょに 空からハルヨドリがはいってきた。トミおばあの部屋の中に ハルヨドリのリュックの中の ハルヨの種が ザザア─とこぼれた。次のしゅんかん 種が いっせいに芽を出し 見るまに スクスクのびて つぼみがふくらみ トミおばあの部屋いっぱいに 春の色の オレンジとピンクの花がさいた。ハルヨドリが つばさを広げてトミおばあに だきつく。“あいたかったよ トミおばあ” “おかえり ずっと まっていたよ”」山田たまん著『光に包まれて』より抜粋・再録 ※ハルヨドリはタイで28年間、ハンセン病の支援活動にかかわり続けている看護師・阿部春代さん。トミおばあは18歳から84年間、宮古島のハンセン病療養所で療養生活を続けこの物語の2年後の2018年の夏、いつも待っていたハルヨドリの翼にのって旅立った享年102歳。